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大阪高等裁判所 昭和42年(ラ)13号 決定 1967年4月14日

抗告人 鈴木光秋(仮名)

相手方 鈴木芳子(仮名)

主文

一、本件抗告を棄却する。

二、抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

按ずるに、民法第七五二条の定める夫婦間の扶助義務と同法第七六〇条の婚姻費用の負担義務とは、観念的にはこれを区別して考えることができるけれども、ここにいう婚姻から生ずる費用とは夫婦間における共同生活保持のために必要な費用をいうのであつて、現実にこれを負担することがすなわち扶助義務の履行になるのであるから、両者は結局において同じことになるわけである。そして夫婦が別居している場合でも、夫婦である限り相互の扶助義務は無くならないのであるから、婚姻費用の負担者は他方に対してその生活保持に必要な費用を支給する義務があるといわなければならない。

ところで、原審判の挙示する各資料を綜合すれば、抗告人と相手方との婚姻当初から原審判がなされるに至るまでの間における夫婦生活関係の推移や別居の事情、夫婦双方の資産、職業、生活能力等について、ほぼ原審判の認定と同様の事実を認めることができるのであつて、右事実関係のもとでは、夫たる抗告人において全面的に婚姻費用を負担すべき義務あるものというべきである。

もつとも、夫婦間の扶助義務は本来同居及び協力の義務と表裏一体となつて婚姻生活の基盤を形成するものであるから、被扶助者が同居協力の義務に著しく違背しているような場合には、現実の扶助義務者でも扶助義務の不履行につき責を負わないものというべきところ、抗告人は、抗告人と相手方との別居の原因は、もつぱら相手方の非協調的な生活態度、怠惰な性質、長男昭治に対する愛情の稀薄などあつて、夫婦関係破綻の責任は主として相手方にあると主張する。しかし前段認定の事実からは、とうていそのようには認められないのであつて(抗告状添付の相手方作成三月二十一日付手紙によつては右認定をくつがえすにたらず)、その責任がもつぱら抗告人にのみ存するとまではいいきれないにしても、主たる責任が抗告人に存することが明らかであるから、右主張は採用できない。

そして夫婦間の扶助は、夫婦が互に自己の生活を保持するのと同等程度において他方の生活を保持することになるのであるから、原審が、双方の資産、収入、社会的地位、生活能力等を考慮して、抗告人は相手方に対し、婚姻費用として、本件審判の申立時以後の昭和四一年三月分から別居して婚姻を継続する期間、一ヶ月金二万円を毎月五日限り(すでに期限を経過した分は、この審判確定の日の翌日限り)相手方に送付して支払うべきことと定めたのは、相当として是認できるところであつて、これを変更するの要をみない。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小石寿夫 裁判官 宮崎福二 裁判官 松田延雄)

(即時抗告理由省略)

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